先日、80歳台の男性が夜間頻尿と排尿困難感、腰痛を訴え当院受診されました。腰痛に関してはすでに整形外科通院加療中とのことで、痛み止めを処方されているとのことでした。MRIで腰椎に病変があるとも言われており、かかりつけ医から大きな病院に紹介され、現在精査中とのこと。当院でもMRIを拝見させていただきました。
初診時の理学的所見上では、腹部には虫垂炎の手術痕が認められている以外に異常所見なし。直腸診上では前立腺が超鶏卵大に腫大しており、前立腺表面は石の様に硬く、ごつごつと不整に触れました。触診上からは前立腺癌の被膜外浸潤を来たしており、前立腺部尿道は圧排され、そのために排尿困難と残尿過多による夜間頻尿では?と推測されました。
その後、尿路エコーを施行したところ、左腎異常なし、右腎異常なし、膀胱内異常なし、前立腺体積135.89ml(正常値20ml未満)とかなり腫大した前立腺で、前立腺の形状も表面が不整で周囲に広がる浸潤性前立腺癌の像を呈しておりました。また、尿流量測定上では、排尿量74.9ml、peak flow5.1ml/sec(基準値10-15ml/sec)、残尿測定264ml(基準値50ml未満)と尿勢低下と残尿過多が認められました。
前立腺経腹超音波像:前立腺表面が不整で、前立腺内部も不均一。前立腺体積135,89ml(正常大:20ml未満)とかなり腫大しております。
また、初めに拝見した持参された腰椎MRI画像ではT1強調像にて、第4腰椎に低信号領域を認めており、前立腺癌の骨転移を強く疑いました。同日行った前立腺腫瘍マーカーPSAの値は87.9ng/ml(F/T17%):正常値4ng/ml未満と異常高値を示しており、予想通りの結果でした。もともと数年前に他疾患でかかったときに前立腺に影があると指摘されるも、精査せず経過を見ていたとの事。そのころからすでに病巣はあったのかもしれません。すぐに整形外科で精査中の大きな病院に所属している泌尿器科へご紹介させていただき、前立腺生検を含めた精査加療を行っていただくことなりました。
腰椎MRI画像:第4腰椎に低信号領域を認めており、前立腺癌の骨転移を強く疑いました。
転移性骨腫瘍の原因は、原発巣が他臓器で悪性腫瘍が骨に転移することにあります。骨転移を来たしやすいがんとしては、肺がん、乳がん、腎がん、前立腺がんなどが知られています。逆に前記疾患よりも患者数が多い消化器がん(胃がん、大腸がん)などは比較的骨転移が起こりにくいとされています。
今回の様に、転移先の病状が先に発覚してから原発巣が同定されるケースもあるため、注意を要します。かかりつけ医でMRIを撮影されたのが約1か月前で、その間あまり効いていない疼痛コントロールのみで時間が経過しております。当院受診を機に急ピッチで原発巣の診断とがん病巣に対する治療を開始し、またオピオイド製剤(医療用麻薬)等を併用しながら疼痛コントロールをして、1か月間の痛みでつらかった時間を払拭しQOLの向上を図ってほしいと願っています。