尿路結石とは、腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石等々、尿路の至るところで結石が存在している解剖学的な位置によって診断名が異なります。結石は基本腎杯もしくは腎盂内で形成され、それが尿管内に下降し、膀胱内、尿道内そして体外に排石されます。
【尿路の解剖:尿管結石の嵌頓好発部位は、主に生理的狭窄部位であることが多く、上記のごとく3か所あります。】
一部で、膀胱に残尿過多であったり、長期カテーテル留置による慢性尿路感染症(複雑性尿路感染症)などが原因で形成される感染結石(リン酸マグネシウムアンモニウム結石etc)などは、膀胱内で形成される尿路結石です。
今回、尿道舟状窩に結石が嵌頓し、排尿困難を主訴に来院され、用手的に摘出した経験を報告します。
患者さんは60歳台の男性で、もともとは前立腺癌に対し、ダビンチ手術後定期follow中であった方です。前立腺癌の診断前から左腎結石は存在しており、一度腎盂尿管移行部(第1の生理的狭窄部位)に結石が下降して疝痛発作を発症するも、一旦左腎盂内に戻り、しばらく問題なく生活されておりました。その後、再度左尿管内に結石が下降し、左背部痛を発症して自然排石を促すべく内服加療を開始。順調に尿管内を下降し第3の生理的狭窄部位である膀胱尿管移行部まで到達し、もう間もなく排石ですね?と次回外来の予定を立てていました。
【膀胱尿管移行部結石;第3の生理的狭窄部位に結石が存在しています。あ、白いホチキスの鋲の様なものはダビンチ手術時のクリップですね。】
【左腎エコー所見:結構な水腎症を呈しています】
しかしその10日後、昨夜急におしっこが出にくくなり救急車で病院を受診したところ、もうすぐに排石しそうだからかかりつけ医に相談してくださいと撮影したCTと診療情報提供書を持参し、患者さんが来院されました。持参されたCTを拝見したところ、尿道の先端であとちょっとで体外に出そうな位置に結石が存在していました。
【持参されたCT矢状断像:尿道の先端部分(尿道舟状窩)に結石が存在しています。】
過去にもブログで2例ほど尿道結石を紹介しておりますが、いずれも尿道括約筋と精丘の間に嵌頓しており内視鏡下での対処でしたが、今回は出口に近いものの、実は厄介な場所である尿道舟状窩にかっちりとはまり込んでいる状態です。私自身この位置に存在する尿道結石は初めての経験でしたので、どうなることやらと一抹の不安を抱えながらの結石の摘出に取りかかりました。ここでも、外来を一時ストップさせての処置になるため、なるべく時間をかけずにすんなり摘除できればなあ、と待ち時間の心配もしながらでした。
患者さんに台の上に乗っていただき、砕石位(お産をするような恰好)の状態で、尿道内にセッシ(ピンセット)を挿入して結石を把持しようと試みました。
【砕石位のシェーマ:外陰部の処置、手術時によく用いられる体位です。】
しかし、ガリガリと結石の存在は感触として分かるものの、なかなかセッシでつまむことはできず、難航しました。しかも結石は視覚的には見えそうで見えないので、ブラインド操作です。そこで、今度はモスキートペアンを用いて再度トライしたろころ、何とか結石を把持でき、左手で尿道を押しながらなんとかスポッと結石を体外に摘出できました。意外とすぐ取れそうな位置にありながら、尿道舟状窩結石は手ごわかったです。
【モスキートペアンで結石を把持し、やっとのことで摘出した瞬間:患者さん、お疲れ様でした、、、】
【実際に摘出した結石:約1cm大ありました。】
尿道舟状窩は外尿道口のすぐ手前にある間隙(スペース)で、そこにはまり込んでしまった結石は押しても引いてもにっちもさっちもいかない、厄介な部位なんです。
【尿道舟状窩のシェーマ:いかにもスポッと結石がはまり込みそうな間隙(スペース)になっていますね、、、】
今回何とか摘除できたからよかったものの、用手的に摘除できなければ外尿道口を少し切開しなければならなくなり、それはさすがに激しい痛みを伴ってしまうので、最悪麻酔管理下での対応になり病院への紹介になってしまうところでしたので、ほっと一安心でした。また、少し外来診療を止めての対応でしたので、他の患者さん達にはお待たせして申し訳ございませんでした。
今回、医師人生初(今年で28年目)の尿道舟状窩結石嵌頓を用手的に摘除できた一例を報告いたしました。