小児糖尿病は最近増加傾向にあるとはいえ、非常に稀な疾患です。今回、亀頭包皮炎を契機に小児糖尿病が発覚したケースを紹介します。 小児糖尿病は最近増加傾向にあるとはいえ、非常に稀な疾患です。今回、亀頭包皮炎を契機に小児糖尿病が発覚したケースを紹介します。

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小児亀頭包皮炎発症から2型糖尿病が発覚した一例

先日、小学校高学年のお子さんが、起床時からおちんちんが痛いとの事で当院受診されました。
初診時の理学的所見上では、包皮の腫脹と白色の恥垢が付着しており、よく見る小児の亀頭包皮炎だよなあと抗生剤の軟膏を塗布しました。ただ、通常の包皮炎とは一部異なる皮膚の状態があり、それは縦列に裂傷が見られているところです。


包皮に付着する白色の恥垢と、所々に見られる包皮の縦列裂傷

これは、成人の亀頭包皮炎でもたまに見られる状態で、背景に糖尿病がある方、または糖尿病に対する内服薬(SGLT2阻害剤)を服薬されている方に特徴的な現象です。いや、しかし、子供だしなあ、まさかそんな事は・・・・、と思い尿検査の結果をみたところ、尿糖定性反応が4+出ているではないですか???んん??で、確かに小学生にしては体格がいいなあと。BMI(体重を身長の二乗で除した値:>25で肥満)を計算したことろ、25.8とやや肥満でした。そこまでの肥満ではないですが、糖尿病の可能性をここで否定しておかないとまずい事になるので、同日採血をすることになりました。親御さんに今までの健診結果について問うても、特に尿検査他、異常は指摘された事が無いとのこと。採血をしたはいいが、もし血糖値に異常がなかったら、単なる私の憶測で過剰医療になり兼ねない??と一抹の不安を抱きながらも、きな臭さを感じた場合には”疑わしきは罰する”が信条ですので、後日結果を待つことにしました。すると・・・・。
随時血糖ですが、416mg/dl(通常<200mg/dl)、HbA1C12.7%(通常<6.5%)と異常高値を示しておりました。糖尿病とは一口に言っても、インスリン分泌がなされていない1型と、生活習慣病からなる2型とがあり、その鑑別をするためにすぐに抗GAD抗体(膵ランゲルハンス島特異的自己抗体の1種)とCPR(C-ペプタイド;インスリン分泌能)を追加したところ、抗GAD抗体<5.0U/ml、CPR1.9mg(正常値0.5-1.8)と自己抗体は陰性、インスリン分泌能は正常であたったため、現時点では2型糖尿病の診断となり、近隣施設へ紹介する事となりました。


軟膏塗布にて、だいぶ改善されてきた包皮:でも赤みはまだ残ったままで、これは尿糖が出続けているためで根本的には完治していないからです。

糖尿病診療ガイドライン2024によると、日本人小児・思春期1型糖尿病の発症頻度は欧米白人に比べて低く、発症率は2.25(対10万人・年)、また2型糖尿病は学校糖尿病健診で発見されることが多く、欧米白人に比べて頻度が高く、小学生で0.80(対10万人・年)、中学生で6.41(対10万人・年)と記載されています。2型は約80%が肥満で、2型糖尿病の家族歴を有する例が多いようです。
今回は、ほんとに偶然発見された小児糖尿病ですが、統計上からも非常に稀であり、学校健診でも引っかからなかった子がまさか泌尿器科受診でしかも亀頭包皮炎の発症を契機に診断されるなんて・・・ね?
あ、ちなみにお父さんも2型糖尿病で他院通院加療中でした。
開業して9年が経ちますが、成人の亀頭包皮炎から2型糖尿病が発覚するケースを何度か経験させて頂いたおかげで、糖尿病に関連する自覚症状が全くないお子さんの2型糖尿病を診断する事でき、これから早急に専門医の管理下で治療するきっかけの一助を担えたことは、普段の臨床経験の賜物とであると報われた感があります。
体の中のブドウ糖は、我々が生きてい行く上で必要不可欠なエネルギー源ではありますが、皮肉にも過剰にありすぎると今度は糖毒性をもって、血管や神経、臓器に対して悪影響を及ぼしてしまいます。HbA1C12.7%は異常高値であり、微小な血管炎や神経障害をすでに引き起こされていてもおかしくない状況であり、またケトン体が産生されると消化器症状や神経症状も出てきてしまうので、速やかに血糖コントロールがなされて三大合併症(網膜症、神経症、腎症)の発症が未然に防がれることを願って止みません。