脳出血後遺症から神経因性膀胱となり、尿閉に至った患者さんに対し、膀胱瘻造設術を施行しました。 脳出血後遺症から神経因性膀胱となり、尿閉に至った患者さんに対し、膀胱瘻造設術を施行しました。

診療ブログ
BLOG

膀胱瘻造設

60歳台の男性ですが、脳出血後遺症から、右半身不随となり、日常生活がほぼベッド上生活となりその後神経因性膀胱から排尿障害をきたし、尿閉状態となってから、経尿道的にバルーンカテーテルを膀胱内に留置されて排尿管理をする事になりました。
尿閉とは、男性の場合、膀胱の出口に前立腺が存在するため、前立腺が肥大すると前立腺部尿道を圧排し、尿道が閉塞してしまうと尿が自力で出せなくなります。これを前立腺肥大症の機械的閉塞と言いますが、もう一つ尿閉の原因としては、膀胱の収縮力が極端に低下し、膀胱内に貯留した尿を体外に排出できなくなった場合です。この状態を神経因性膀胱と言います。
今回は後者の方で、脳出血により、排尿中枢である大脳からの排尿命令が上手く膀胱まで伝わらずに尿閉となりました。通常は自己導尿を選択しますが、座位を保つことが出来ず、また、右半身不随のため右手でカテーテルを把持する事が出来ないため、やむなく膀胱内へのカテーテル留置となりました。
しかし、男性にとっては尿道内に異物を挿入されることは拷問に近い激痛を伴うため、月1回の交換時はほとんどの患者さん達は恐怖とストレスでもう耐えられないことと思います。
今回の患者さんは、特にカテーテル挿入時もさることながら、カテーテル留置後も自宅に帰ってからカテーテルの違和感と痛みがが辛くて、痛み止めを常用しなければならず、患者さん本人のみならず、介護者の奥さんもストレスになっていました。
そんな状況を目の当たりにして、こちらとしても他の代替案を考えたところ、尿道を介さずに膀胱内にカテーテルを留置する方法として、膀胱瘻造設を行う事に決めました。通常は尿道損傷を起こし、経尿道的にカテーテル留置が出来ない方が適応になるため、今回のケースは特殊なケースで、一般的ではありません。私自身も今までは経尿道的アプローチで可能な方に膀胱瘻を造設した事は一度もありませんでした。しかし、今回の患者さんは毎日が尿道の痛み、違和感でノイローゼになっており、その姿を見るに堪えない奥さんの気苦労も考慮して、早くその痛みから解放させてあげたい一心から決断したのです。


膀胱瘻造設キッド一式と、必要物品です。

膀胱瘻造設の当日は、まずは膀胱内に充分な尿の貯留がないと、誤って腹腔内に穿刺する事故がまれに起こりうるため、すでに留置されているカテーテルから生理食塩水を約200ml注入して膀胱を膨らまし、恥骨から2横指の位置に穿刺部位のマーキングをしました。ここからエコーで皮膚から膀胱内の距離を測ります。


エコーにて、腹壁から膀胱壁、膀胱の最深部分、膀胱内の中間部分までを計測してます。

カテラン針という、普段の採血では使用しない特殊な長い針(23G)を用いて2%カルボカイン(局所麻酔薬)を皮膚から注入しつつ、膀胱内に到達したら尿の逆流を確認して、穿刺の深さをシミュレーションします。その後、尖刀メスで約2cmの皮膚切開を置き、モスキートペアンで皮下組織を分けて、外筒付きの穿刺針で一気に皮膚から膀胱内に穿刺。約5cmぐらいの深さで尿の逆流が見られたので、外筒のみを膀胱内に進めて、穿刺針の内筒は抜去し、すぐさま14Frシリコンバルーンカテーテルを外筒から膀胱内へ挿入。外筒は特殊加工されているため、ピールアウェイ(皮を剥ぐ)して抜去し、バルーン内に蒸留水を約6ml注入し、固定。


膀胱内に経皮的に穿刺され、留置されたカテーテル先のバルーンの存在を確認したところ。

エコーで再度膀胱内にバルーンが存在する事を確認して、3-0ナイロン糸にて皮膚にカテーテルを固定して、終了しました。


恥骨から約2横指の位置に穿刺し、留置された膀胱瘻:14Frバルーンカテーテル。

患者さんからは、処置終了後に”先生ありがとう”と感謝されました。これで、今までの尿道の痛みから解放されます。
まあ、今回の膀胱瘻造設は特殊なケースでしたが、患者さんが悩んでいる事にはなるべく聞く耳を持ち、出来る限りの事をしてあげたいものですよね?