男性に特有の陰嚢の疾患、緊急性のあるものや、悪性のもの、感染症、緊急性はなく、待機的にみていけるがいずれは手術も検討していくものなどなど、様々な疾患があります。
今回は、比較的若年男性で、受診前日から左陰嚢痛を主訴に当院受診された精索静脈瘤の一例をご紹介します。
まずは、理学的所見上は両側精巣にしこりや圧痛は無し。(精巣癌や精巣上体炎などは否定的)次に陰嚢エコーを当ててみたところ、やはり精巣内部は均一で腫瘍性病変なし。精巣周囲にecho free spaceなし(陰嚢水腫なし)、精巣上体の腫大などなし。カラードップラーにて精巣内部の血流は良好にて精巣捻転症も否定されました。ここまでの検査結果においては、異常所見は無し。では、左陰嚢の疼痛の原因はいったいどこにあるのか???そこで、超音波探触子を少し上方へずらしていき、精索部分にあててみました。あ、精索って何?と聞いたことが無い方の方が多いかと思われますので、端的に解説します。精索というのは、精巣動静脈と精管を束ねた、いわゆる電線のコードのようなもので、総鞘膜に覆われている部位です。
(左鼠径部の精索の解剖)
今回、横着したわけではないのですが、本来なら立位で触診すべきところを臥位のままで診察したため、外観上は認識できなかったのですが、超音波探触子を当ててカラードップラーで血流を見たところ、安静時の蔓状静脈叢(精索静脈)は血流ともにそれほど目立っていなかったにも関わらず、さんハイ!と患者さんにフン、と腹圧をかけてもらうと・・・、
(安静時)
(腹圧時):Valsalva負荷時
明らかに静脈叢の血管内腔の拡張と血流が逆流している像が映し出されていますよね?これが、精索静脈瘤の存在を示しております。
精索静脈瘤のgradeには視診・触診での1-3分類ありますが、今回は超音波画像での診断になったため、subclinical精索静脈瘤に分類されます。
疼痛メカニズムは血流の逆流による精巣温度の上昇、静脈圧の上昇、酸化ストレスに加え拡張した静脈による周囲の神経線維の圧迫が原因と考えられているようです。手術療法により約80%の症例に疼痛の改善が得られるとの報告があります。(逆に残り2割は術後症状の改善が見られない場合もあり、術前のインフォームドコンセントはとても重要になります!)鑑別診断としては、腰椎椎間板ヘルニアや慢性前立腺炎などがあげられます。また、精索静脈瘤の一部に不妊症との関連や、通常左側に80-90%を占めると言われていますが、右側のみの発生の際には、内臓逆位(カルタゲナー症候群)の場合や腎腫瘍に伴う腎静脈の圧排に起因するケースも報告されており、念頭に置いておく必要があります。今回のケースは、一度は経過観察を選択されましたが、やはり痛みが気になって日常生活にも支障が出てきているとの事で、後日腹腔鏡下での精索静脈高位結紮術目的に他院へご紹介させていただく運びとなりました。施設によっては顕微鏡下低位結紮術を選択される場合もあります。
精索静脈瘤はほとんどが左側に発生します。
では、なぜ精索静脈瘤は左に多いのか?
図に示している通り、左精索静脈は左腎静脈に流入しており、非常に遠回りな走行をしており、また、左腎静脈への流入角度が右側に比べて大きいこと(鈍角)、左腎静脈のナッツクラッカー現象(左腎静脈が下大静脈に流入するまでの経路の途中で上腸間膜動脈と大動脈に挟まれていることによる、左腎静脈圧の上昇)などが考えられます。それに比し、右精索静脈は下大静脈に直接流入することで、近道であり、下大静脈と右精索静脈のなす角度が小さい(鋭角)であることなどが逆流が生じにくい原因と考えられています。全男性の15%に認められており、そして男性不妊症患者さんの約40%に認められているとの報告がなされております。
今回は、男性に特有の、あまり聞きなれない精索静脈瘤のお話をさせていただきました。
(岩手県庁に掲げられた横断幕!!)
あ、それと、WBCで連日大変盛り上がっていますよね?凱旋帰国の大谷翔平選手が投打に渡っての大活躍を、そして佐々木朗希選手は12年前に東日本大震災でご家族を亡くされた運命の3月11日に登板し、平均160km/h台の圧巻ストレートで味方のエラーによる1失点も、3回と2/3を自責点0で抑えました。岩手県出身の2人がチームの要となって大活躍している姿を見て、私もとっても元気をもらえました!!あと、もう一人!!実は山川穂高選手も出身は沖縄県ですが、大学時代は岩手県にある富士大学で過ごしていたことがあり、今回3月11日WBCのスタメンに3名が岩手にゆかりのある選手として起用されたことは、ほんと同県民として誇らしく思います!!今後の侍JAPANの動向から目を離せませんね!!