普段は前立腺癌の内分泌加療で通院中の方が、数日前から下痢(水様便)を1日数回、腹部の張りと痛みが出ているとの事で臨時で受診されました。納豆に生卵をかけて食べたとのことでしたが、そんなに古い卵ではなかったようですし、冷たい物を食べたり、飲んだりしたことによる水当たりのようなものと判断し、漢方薬と整腸剤を処方し、また白湯やうどん、おじやのような温かくて汁気の多いものを食するようお伝えし、帰宅としました。しかしその4日後、内服してもあまり症状が変わらない、依然水様便が続いていて、腹痛もなかなか引かないとの事で来院されました。腹部の理学的所見上では弾性軟で腹部の膨満はそれほどではなく、圧痛は軽度あるものの、筋性防御や反跳痛はなし。嘔気や嘔吐は一時あったが、今現在はないとのこと。発熱なし。腸蠕動はやや弱いかほぼ問題なし。腹部手術の既往なし。
下痢もしているし、排ガスもあるとのことなので、感染性腸炎によるものか、水当たりで間違いないと思うが・・・・と考えていたのですが、患者さんの訴えからもまずない(イレウス症状とは違うし・・・)とは思うものの、腹部レントゲンは念のため撮ってみておかないと、と立位腹部単純x-pを撮影したところ・・・・??
な、なんと教科書で出てくるような典型的な二ボー像(小腸ガスの鏡面像)が写っているではありませんか??この画像を見てしまってはさすがに自宅で経過観察とはならないため、近隣施設へご紹介させていただくこととなりました。幸いCT上では器質的な要因は除外されたため、保存的加療による数日入院のみで退院となりましたとの事。(胃管も入れずに、食止めもせず、低残渣食と点滴による補液のみと→かなり軽症ではあったようです。)
イレウス(腸閉塞)の原因は様々ですが、過去の腹部手術後の癒着性イレウスによるものが全体の6割近くを占めている様です。今回は腹部手術の既往歴がなく、典型的な繰り返す嘔吐や、便秘、排ガスなしなどのイレウスをにおわせるような主訴がなかったため、一旦は内服加療で経過を見てしまったことに深く反省しています。かといって、下痢症状をきたしている方全員に腹部レントゲン撮影をすることは過剰医療になってしまいますし・・・。んー、難しいところですね。紹介先からの返信では感染性腸炎によるイレウスとのことでした。いわゆるおなかの風邪ということになりますが、いやー専門外だとなかなかそこまで(感染性腸炎→イレウス)察することはできませんでした。親しくさせていただいている消化器内科の先生に今回の件を聞いてみたところ、感染によって炎症を起こし、組織の間質が浮腫むことで相対的に腸管の内腔が狭窄を起こし、閉塞機転が発症するとのことでした。今回はかなりいい勉強をさせていただきました。また一歩医師として成長させて頂きました!患者さんにも感謝です!