先日、肉眼的血尿が数日前から出現しているとの事で、70歳台の女性が来院されました。背中の痛みや排尿時痛などはないが、夜間頻尿3回、尿意切迫感はあるとのことでした。理学的所見上腹部は弾性軟で圧痛なし、左右背部に叩打痛なし。
尿路エコー上左腎異常なしも、右腎に高度水腎症を認めており、膀胱内には尿の貯留が少量でしたが、確認しうる範囲では異常なし。尿沈渣上もRBC20-30/hpf、WBC1-4/hpfと血尿のみ単独で認められており、尿中白血球が無かったため、尿路感染は否定的でした。肉眼的血尿があって、右高度水腎症が認められるとなると、鑑別診断としては、尿管腫瘍や尿管結石が挙げられます。ただ、急激な背部痛などがないことから、尿管結石の可能性は低いかな、という印象でした。とにかく超音波の盲点は尿管の情報が得られないことなので、今回はCTU(CTウログラフィー:CT尿路造影)が必須であること、膀胱内に腫瘍性病変が無いか膀胱鏡にて確認すること、良悪性の鑑別として、尿細胞診を採取することなどが臨床診断において、必要な検査内容になります。最終的な確定診断は組織診断になります。
すぐさま近隣施設でCTUを施行したところ、エコーで指摘された右腎の高度水腎症および水尿管が認められており、大元の閉塞機転は・・・というと、矢印のごとく右尿管下端に尿管内腔に造影効果のある充実性腫瘍が認められておりました。
また、傍大動脈や下大静脈周囲の腹部リンパ節が多発性に腫大しており、リンパ節転移を来たしておりました。
さらに膀胱鏡にて膀胱内を観察したところ、膀胱壁からの腫瘍性病変は認められておりませんでしたが、右尿管口からは、先ほどCTで認められた右下部尿管腫瘍が顔を出しておりました。ここまでの状況になるには、月単位、いや年単位はかかっていることと思われます。自覚症状が無かったために特に検査をする機会にも恵まれず、右尿管腫瘍が徐々に増大し、腹部リンパ節転移にまでおよんでしまった進行がんとして今回発見されるに至りました。尿細胞診もclassⅤでしたので、右尿管癌に対する、右腎尿管全摘除術施行目的に近隣施設にご紹介させていただきました。紹介先からのお返事では、まず組織診断を行ったうえで化学療法(抗がん剤投与)を行うとのことでした。
この方は、右腎機能がほぼ皆無に等しく、実際の採血上での総腎機能はCr1.28mg/dl、推算GFR31.5ml/minと、通常の方の半分以下であり、抗がん剤を投与するにしてもかなり減量して投与しないとならないため、有効性がどこまであるのか不安があります。今回は術前化学療法(ネオアジュヴァント療法)を行う理由として、なるべく遠隔転移巣を小さくし、また万が一腫瘍が尿管壁外への浸潤をきたしていた場合にも、限りなく取り残しの無いよう腫瘍のボリュームを小さくするのが目的です。ただ、70歳台という年齢を考慮すると、ネオアジュヴァント療法を行うことで体力が低下し、手術時期が遅れてしまったり、手術に耐えられる体力が元通り回復するのか一抹の不安はあります。右腎機能が正常であれば、ネオアジュヴァント療法は抗がん剤のdose量をフルに投与できるメリットがあるので、有効であると思いますが。始めに体力があるうちに手術をして、術後にアジュヴァント療法を行ってもいいのかな、と個人的には思いました。ここは意見の分かれるところですね。今回のケースのように、自覚症状なく進行してしまうのが癌の怖いところです。やはり、年1回は健康診断を受けて、採血のみならず、腹部エコーやCT検査など、画像診断も行っておくのが大事だなあと改めて感じさせられました。
ちなみに腎盂・尿管腫瘍(尿路上皮腫瘍)は比較的まれな疾患で、全尿路腫瘍のおよそ5%を占めるとされております。また40歳台に認められることはまれで、50-70歳台に多く、男女比は2:1といわれています。